ようこそ、北海道の広い空の下へ

えんの森は、広大な牧草地でたくさんの牛たちが放牧されている北海道東部で暮らしと環境の調和を目指して活動するNPO法人です。


「水辺の小さな自然再生」出版報告会開催します

 当会の中川大介理事が、昨年12月に農山漁村文化協会より「水辺の小さな自然再生 人と自然の環を取り戻す」を出版いたしました。

 住民自らが発案し自治体と協働して、身近な生きものの生息環境を回復させようという「小さな自然再生」が全国各地で行われています。

 

 この本では三郎川をはじめ道東の小河川での手づくり魚道を例にするとともに、東日本大震災後にすっかり変わってしまったご自身の故郷、三陸沿岸の風景を通して、地域の人びとにとって身近な自然や風景とは何なのか、また、それらを自分たちの力で取り戻すことの意味を問いかけています。

 この度、始まりの地・浜中でお話しいただく機会を得ましたので、「小さな自然再生」が今の社会で持つ意味について考えるとともに、設置から15年を過ぎた三郎川魚道の今後についても皆さまと考えたいと思います。

 多くの方にお越しいただければ幸いに存じます。

 

 

日 時 : 5月4日(土)午前10時

 

場 所 : 西円朱別農民研修センター(浜中町西円朱別西18線185番地)

 

三郎川魚道が教えてくれた

三郎川魚道が教えてくれた

            NPO法人えんの森理事 中川大介

 

 忘れがたい光景がある。

 2008年の10月。浜中町の三郎川に、酪農家をはじめ住民の皆さんと魚道を完成させ、帰途に就こうとしていた夕刻のこと。暮れなずむ秋空に「クー、クー」と鳴き声が響いた。見上げれば、頭上を2羽のタンチョウが低く飛んで行く。羽音を残した純白の羽が、夕映えの朱いろにわずかに染まっていたように思う。

 自然のめぐりのなかに、人の「環」(わ)のなかに自分がいる気がした。心豊かな瞬間だった。

 あれから、幾度も三郎川に行った。そして、時に維持管理の作業に加わりながら、川という「公物」に、管理者でもない住民が魚道をつくるということの意味を考え続けた。魚道を設計した札幌の河川コンサルタント岩瀬晴夫さんが、たくさんの手がかりをくれた。人は「水」や自然とどのようにかかわってきたのか。自然を制御する近代の技術は、人と自然に何をもたらしたか。いまこの時代に、地域の人びとが力を合わせて自然と向き合うことの意味とは―。

 魚道をつくって3年後、故郷・三陸地方を大津波が襲った。惨憺たる姿になった故郷を目の当たりにして、私は自然の力のあまりの大きさを知った。人に多くの恵みをもたらしながら、時に牙をむく。その自然といかに向き合うべきか、考えずにはいられなかった。

 それらの経験から生まれたのが本書である。

 三郎川が教えてくれたものは多かった。それをうまく伝えることができたか、自信がない。だが、本書に収めた岩瀬さんや中村太士さん(北大教授)の言葉は、人と自然、そして技術というものの本質に迫り、多くの方々に受け止めてもらえると思う。

 三郎川手づくり魚道は岐路にある。えんの森が事務局をつとめる魚道設置委員会が維持管理を担っているが、現場作業の担い手が減り、設備も古びつつある。本書で書いた美幌町の手づくり魚道のように恒久的な魚道に置き換えるのか、他に機能を維持する手段を見つけるか、あるいは撤去するか、先行きを見定めなくてはならない。三郎川をめぐる物語は、まだ終わらない。作り手の一人として、その責任を引き受けていかねばと思っている。

 

 えんの森のメンバーをはじめ、浜中の酪農家や行政、住民の皆さんとの出会いなくして、この本は生まれなかった。全国に配本される本の読者が、手づくり魚道という試みをどのように受け止めるか、想像もつかない。もしかすると、三郎川で新たな物語のページが始まるかも―と、いささか不安混じりに期待している。

(2023年12月発行 えんの森通信第14号から)

「水辺の小さな自然再生 人と自然の環を取り戻す」

『水辺の小さな自然再生  人と自然の環(わ)を取り戻す』

           中川大介著、(一)農山漁村文化協会、2000円+税

 

地域住民が発案・協働し、手づくりの技で、身近な生物の生息環境を回復する「小さな自然再生」が全国に広がっています。

 本書は、浜中町の三郎川をはじめ北海道の川ですすむ「水辺の小さな自然再生=手づくり魚道」を取り上げながら、地域で暮らす人びとにとって身近な自然や風景はどんな存在なのか、また、それを自分たちの力で取り戻すことの意味は何なのか、と問いかけます。

 戦後の高度成長期、川は河道改修や土地の造成によってその姿を大きく変え、人びとから遠くなってしまいました。この本は、東日本大震災後、激変した東北沿岸の風景の描写から始まります。防潮堤や高台移転…。海とともにあったこの地の暮らしも風景も大きく変わってしまいました。

 「小さな自然再生」に加え、もうひとつのキーワードが、哲学者・桑子敏雄さんの言う「空間の履歴」です。外部から見た風景や歴史でなく、そこに具体的にかかわることから生まれるのが、その人にとっての、そして地域にとっての「空間の履歴」です。

 「小さな自然再生」を経糸(たていと)に、そして「空間の履歴」を緯糸(よこいと)に、地域の自然と風景のもつ意味、それを地域の力で取り戻すことの豊かな可能性について描いていきます。

 

目次

 

    序章 変貌した故郷の風景――失われた空間の履歴

    巨大な防潮堤

    失われた「空間の履歴」

    礎石のメッセージ

    自然とのかかわりを問い直す

   1章 小さな自然再生との出会い――三郎川手づくり魚道ものがたり

    緑の回廊づくりから手づくり魚道へ

    立ち上がった住民たち

    人の環と自然の環

    生活空間に新たな履歴を重ねる

   2章 広がる小さな自然再生

    ふるさとの川を北海道美幌町・駒生川

    民がつなぐ環――釧路地方・釧路川支流

    「小さな自然再生」研究会の取り組み

   3章 なぜいま小さな自然再生なのか

    「見試し」を重ねて得られるものは――岩瀬晴夫さんに聞く

    自然とかかわる技術のあるべき姿――中村太士さんに聞く

    終章 小さな自然再生がひらく未来

    桜の植樹に託す再生への願い

    空間の改変と小さな自然再生

    履歴を重ねる続けることの意味

    生きる場の風景の取り戻しを求めて

 

    終わりにかえて――海に生きる人に、凪を